
2026年の中途採用市場は、かつてない局面を迎えている。労働人口の減少に伴う深刻な人手不足を背景に、企業側の採用意欲は依然として高い。各種調査によれば、企業の約9割が中途採用に積極的な姿勢を示しており、採用市場の活況を示す指標も高水準を維持している。
しかし、現場の課題感は従来とは明らかに異なる。かつての「人手を確保する」という「量の確保」から、自社の成長戦略に不可欠な即戦力・高度人材を獲得する「質の確保」へと、焦点が完全にシフトしているのだ。
こうした市場環境の変化に伴い、企業の採用活動そのものの構造改革が進行している。その最前線を浮き彫りにしたのが、リモートワーク人材サービスを手掛ける株式会社キャスター(東京都千代田区、代表取締役 中川祥太)が2026年8月に発表した「採用ツール利用実態調査(2026年版)」だ。
「単一媒体」の終焉、1社平均3.3サービスを活用
同社が自社の採用支援サービス「CASTER BIZ recruiting」の支援企業(IT・インターネット業種をはじめとする主要新興企業等)を対象に実施した実利用データの集計結果によると、企業の採用ツール多角化が極めて高い水準に達していることが判明した。
調査対象となった74社のうち、実に81.1%(60社)が2つ以上の求人媒体やダイレクトスカウトサービスを併用していた。1社あたりの平均利用サービス数は「3.3」。さらに驚くべきは、全体の約4割に相当する37.8%(28社)が「4サービス以上」を同時に運用しているという事実だ。1サービスのみの運用にとどまる企業は17.6%にすぎない。
具体的に利用されているサービスを見ると、トップは「ビズリーチ」で36社(48.6%)、次いで「リクルートエージェントスカウト」が30社(40.5%)、「Green」が18社(24.3%)と続いた。ハイクラス層や即戦力エンジニアなど、ターゲット層の細分化に応じてサービスを使い分ける「マルチチャネル戦略」が、もはや中堅・成長企業における標準的な採用プロセスの前提となっていることが窺える。
ATS(採用管理システム)選択に見る「採用構造」の分岐
ツールの多角化は、採用プロセスの基盤となるATS(採用管理システム)の選定にも顕著な影響を与えている。
同調査においてATSの利用状況が確認できた91社を分析すると、外部ATSでは「HRMOS採用」(ビズリーチ提供)が26社(28.6%)、「HERP Hire」(HERP提供)が25社(27.5%)と、二大勢力が激しく拮抗する結果となった。
興味深いのは、企業が展開する「採用区分」によって選択されるATSの傾向が明確に分かれている点だ。
- 新卒・中途の両方を行う企業:現場巻き込み型の採用を得意とする「HERP Hire」が36.0%を占め、トップに立つ。
- 中途採用に特化する企業:業務効率化やオペレーション構築に強みを持つ「HRMOS採用」が29.0%で首位となった。
中途採用中心の企業では、大量の候補者データや複数媒体の集約をいかに効率化するかが重視される一方、新卒を含む総合的な採用戦略を描く企業では、社内各部門の面接官やリクルーターをシームレスに巻き込む協調型ツールが選ばれる傾向にある。
ツール乱立がもたらす「オペレーション不全」という新たな罠
この「マルチツール時代」の到来は、企業に何をもたらしているのか。
専門家が懸念を示すのは、ツール増加に伴う「人事現場の業務肥大化と混乱」だ。スカウトサービスを4つも5つも併用し、それぞれのダッシュボードで候補者を管理し、同時に複数のATSに入力する作業は、人事担当者の膨大な工数を奪う。結果として、「スカウト返信の遅れ」や「候補者体験(CX)の低下」を引き起こし、本来の目的である「質の高い人材の獲得」から遠のくという本末転倒な事態が各所で発生している。
こうした課題に対し、キャスター社のように自社でもATS(「God」など)を開発・活用しつつ、オペレーションそのものを外部パートナーとして伴走支援する「RPO(採用代行・支援)」市場への需要が急増している背景もここにある。単にツールを導入するだけでは採用競争に勝てず、複雑化したツール群をいかに統合し、滑らかに運用・分析できるかが、企業の採用競争力を決定づける時代に入ったと言えるだろう。
2026年後半、企業に求められる「構造改革」
2026年後半に向けて、中途採用市場の熾烈な獲得戦はさらに激化することが予想される。
もはや「どの求人媒体に出すか」という単一の選択肢で勝負が決まる時代は終わった。ターゲット人材に応じた複数ツールのポートフォリオ構築、自社の採用体制に最適なATSの選定、そしてそれらを迅速かつ緻密に回すための運用基盤の確立――。
採用活動を「単なる人事作業」ではなく、企業の持続的成長を左右する「戦略投資・オペレーション構築」と捉え直せるかどうかが、今まさに日本企業の成長の分岐点となっている。









