
ビジネスチャット「Chatwork」を運営する株式会社kubell(東京都港区、代表取締役CEO:山本正喜)は3月23日、クラウド郵便サービス「atena」を手がけるatena株式会社(東京都千代田区、代表取締役:白髭直樹)の全株式を取得し、グループ会社化することを発表した。買収金額は非公表。
郵便という「デジタル化の死角」
kubellはここ数年、ビジネスチャット事業から業務代行へと事業領域を拡張してきた。2023年に開始した「タクシタ(Chatwork アシスタント)」は、経理・事務・総務・採用といったバックオフィス業務をチャット経由でアウトソースできるサービスで、人とAIを組み合わせた「BPaaS(Business Process as a Service)」モデルの中核を担う。
しかし、同社が自社の課題として認識していたのが郵便業務だ。中小企業の現場では、請求書や契約書、各種通知といった紙の郵便物の受取・仕分け・保管がいまだアナログのまま残っており、デジタル化が最も遅れた領域の一つとされてきた。山本CEOは「郵便物の受取・管理といったアナログ業務がいまなお多くの企業に残っており、BPaaSとして届けられていない領域があることを課題として感じていた」と述べている。
atenaが持つ「累計100万通」の実績
atena社は2020年の現法人設立以来、法人・個人事業主向けに郵便物の受取代行・開封・スキャン・PDF化・クラウド管理・転送・廃棄といった一連の業務をワンストップで提供してきた。累計取扱郵便数は100万通を超え、士業事務所や中小企業を主要顧客とする。
このユーザー層はChatworkの主要ユーザー層とも重なる。kubellにとっては、既存顧客基盤への追加提案という観点でも、M&Aの合理性は高い。atenaはスキャン代行・事務代行など郵便業務を起点とした複数のサービスラインも持ち、単なるデジタル化ツールにとどまらない「オペレーション×テクノロジー」型の高付加価値サービスとして位置づけられている。
「中小企業No.1 BPaaSカンパニー」への布石
kubellが掲げる中期経営目標は「中小企業No.1 BPaaSカンパニー」だ。今回の買収により、経理・労務・総務・採用に加え、郵便管理までを一気通貫で提供できるサービス体制が整う。バックオフィス業務の包括的な受け皿となることで、顧客の囲い込みと解約率低減(チャーン抑制)にも寄与するとみられる。
旧Chatwork株式会社から2024年7月に現社名へ変更したkubellは、ビジネスチャット単体のSaaS企業から脱却し、BPaaSプラットフォーム企業への転換を鮮明にしている。atenaの子会社化は、その戦略を具体化する一手と言える。
atena社の白髭代表は「急速に成長しているBPaaS事業との連携により、郵便をはじめとしたオフライン業務を含むバックオフィス全体の効率化サービスを提供し、より多くの中小企業が本業に集中できる環境を届けられると確信している」とコメントしている。
中小企業DX市場の競争激化を背景に
中小企業向けのDX支援市場では、バックオフィス業務のアウトソーシングや自動化を掲げる事業者の参入が相次いでいる。競争軸がSaaS単体の機能から「業務プロセスごと代替できるか」へと移行するなか、kubellはM&Aによるサービス範囲の拡大で差別化を図る戦略を加速させている。
郵便のデジタル化という一見地味な領域への投資が、中小企業DXの「最後の一マイル」を埋める布石となるか。今後の統合施策と業績への反映が注目される。




