
●この記事のポイント
・人事・労務管理の分野でBPaaSの導入が拡大
・給与計算や勤怠管理といった定型的かつ法令遵守が求められる業務を迅速かつ正確に処理できる
・代表的な人事・労務管理向けBPaaSサービス5選
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速するなか、人事・労務管理の分野にも新たな業務効率化の波が押し寄せている。その中心にあるのが「BPaaS(Business Process as a Service)」だ。BPaaSは、従来のアウトソーシング(BPO)とSaaSを融合させたサービス形態で、業務プロセスの効率化とコスト削減を同時に実現するモデルとして注目を集めている。
今回は、人事・労務管理に特化したBPaaSの概要から、その具体的なサービス例までを解説し、今後の展望を考察する。
BPaaSは、業務プロセスをクラウド上で提供し、専門業者の人的リソースとクラウドベースのソフトウェアを組み合わせて業務の自動化・効率化を促進するサービスだ。人事・労務管理領域では、給与計算、勤怠管理、社会保険手続き、年末調整、人事評価など、正確性と法令遵守が強く求められる定型業務が多く存在する。
これらは企業のコア業務とは異なり、多くの担当者にとって負担となりやすい。一方で、属人化や法改正対応の遅れはコンプライアンスリスクにもつながる。BPaaSは、こうした課題を解決しつつ、企業が戦略的な人材活用や事業成長に専念できる環境を整備する。
BPaaSの特徴と企業メリット
BPaaSの導入にあたって押さえておきたい特徴は主に以下の3点だ。
・クラウド活用による業務一元管理
クラウド上で業務プロセスとデータを一元管理し、リアルタイムの進捗確認や情報共有を実現。法改正や保険料率の変更にも即応可能な自動更新機能が強みとなる。
・専門家による高品質な代行サービス
人事・労務の専門家が業務を代行することで、精度とコンプライアンスを担保。複雑な法規制や煩雑(はんざつ)な手続きも安心して任せられる。
・柔軟なコストモデルと運用スケーラビリティ
サブスクリプション型や従量課金制のため、企業規模や業務量に合わせてコストを最適化。初期投資を抑えつつ拡張性の高い運用が可能だ。
導入メリットと注意点
BPaaSを導入することで得られる最大のメリットは、業務効率の飛躍的な向上とコスト削減だ。クラウド技術を活用したシステムの自動化により、給与計算や勤怠管理といった定型的かつ法令遵守が求められる業務を迅速かつ正確に処理できるため、人的ミスの軽減や作業時間の短縮が可能となる。また、専門知識を持つプロフェッショナルが業務代行を行うため、コンプライアンスリスクの低減にもつながる。さらに、サービスをサブスクリプション型や従量課金制で利用できるため、初期投資を抑えつつ、企業規模や業務量に合わせた柔軟な運用が実現可能となる。
一方で、いくつかの注意点も存在する。業務の重要な情報をクラウドに預けるため、情報漏洩や不正アクセスといったセキュリティリスクを十分に考慮しなければならない点だ。また、特定のベンダーに依存することで、将来的に他社サービスへの移行が難しくなるベンダーロックインのリスクも念頭に置く必要がある。さらに、BPaaSは標準化された業務プロセスに基づくため、自社の独自要件に対してはカスタマイズに制約がある場合が多い。そのため本格的に導入する前の業務適合性の確認が重要となる。
これらのポイントを踏まえ、自社の業務内容や要件に最適なサービスを慎重に選択し、運用開始後も継続的な管理と改善を行うことが不可欠だ。
代表的な人事・労務管理向けBPaaSサービス5選
ここからは、国内で実績のあるBPaaSサービスを紹介する。
1.Chatworkアシスタント
ビジネスチャット「Chatwork」を活用し、勤怠管理や給与計算代行などバックオフィス業務全般をサポート。ITリテラシーの低い企業にも導入しやすいシンプル運用が強み。介護事業をはじめさまざまな業界での利用実績を誇る。
https://assistant.chatwork.com/
2.freee人事労務アウトソース
クラウド型人事労務システムと専門スタッフの代行サービスを融合。給与計算や年末調整、入退社手続きなど幅広い業務をカバーし、中小企業やスタートアップの負担軽減に寄与。法改正対応やリアルタイム進捗管理も特徴。
https://www.freee.co.jp/bpaas/hr/
3.HR BPaaS
大規模企業向けに設計され、100万人超の給与計算をサポート可能。AIを活用したデータ分析機能や堅牢なBCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)体制を備え、複雑な給与体系や業界特有の要件にも対応。金融や外食業界での導入実績が豊富。
https://www.payroll.co.jp/hrbpaas/about/
4.奉行クラウドBPaaS
給与計算から採用支援まで幅広い人事労務業務をアウトソーシングできる。税理士・社労士など専門家の関与により業務品質を担保し、中堅から大企業まで幅広い層に支持されている。業務カスタマイズが柔軟にできる点も人気。
https://www.obc.co.jp/landing/bpaas
5.ジンジャーBPaaS
クラウド型人事労務システム「ジンジャー」を基盤に、BPOパートナーと連携。人事評価運用支援や従業員問い合わせ代行も含め、多彩な機能を提供。スタートアップやIT企業での導入が進んでいる。
https://hcm-jinjer.com/
BPaaS導入成功のためのポイントと今後の展望
BPaaSを効果的に導入し事業成功へ反映させるためには、いくつかの重要なポイントが存在する。まず、自社の業務フローや業界特有の要件に適合するサービスを選定することが不可欠であり、そのために導入事例やユーザーレビューの活用が有効となる。次に、情報セキュリティの観点から、ISO/IEC 27001認証の取得状況やデータ暗号化の有無など、堅牢なセキュリティ体制の確認が欠かせない。また、導入時における業務設計支援の充実度や、運用後のトラブル対応力を含むサポート体制の充実も成功の鍵となる。さらに、初期費用や月額料金、従量課金などコスト構造の詳細を把握し、自社の予算と整合させることも重要である。
今後は、AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)技術の進化に伴い、自動化や高度なデータ分析機能がさらに強化されることが期待される。特に国内市場においては、少子高齢化や働き方改革の推進による人事労務管理の効率化ニーズが高まっており、BPaaSの役割と普及が一層拡大すると予想される。
(文=齋藤めぐみ/有限会社リーゼント、ライター)