
東証プライム上場企業を中心に広がる「株価純資産倍率(PBR)改善」圧力が、企業の管理会計のあり方を根本から揺さぶっている。そのニーズの最前線に立つログラスが、旗艦製品「Loglass 経営管理」の大型アップデートを断行した。配賦機能の全面刷新とダッシュボードの新設――その狙いと背景を読み解く。
「分析の精度」と「意思決定の速度」、宿命のトレードオフ
東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営」を上場企業に求め始めて以来、PBR1倍割れ企業を中心に経営改革の波が広がっている。だが、財務戦略の高度化を叫ぶ経営層の声とは裏腹に、現場の経営企画部門では依然として表計算ソフトとの格闘が続いているのが実態だ。
「見たい数字が変わるたびに、システムの再設定が必要になる。会議中にその場で分析軸を変えて議論するなど夢のまた夢だった」――こう嘆く経営企画担当者の声は、業種を問わず共通している。分析の解像度を上げようとすると意思決定のスピードが落ちる。この構造的なジレンマこそが、日本企業のデータ経営推進を阻む最大の壁となってきた。
クラウド経営管理システム「Loglass」を提供するログラス(東京都港区)が、2026年3月に実施した大型機能アップデートは、まさにこのトレードオフへの正面突破を狙ったものだ。「配賦・振替機能の全面リニューアル」と「ダッシュボード機能の新設」という二本柱で、経営管理の「精度・網羅性・速度」を同時に解決すると同社は訴える。
KEY FACTS ── 今回のアップデート概要
配賦機能
多軸・多段階の複雑なロジックをユーザー自身で設定可能に。複数パターンの比較も実装。「繰り返し配賦」機能は特許出願中。
ダッシュボード
ノーコード操作でグラフを生成。帳票からワンクリックで可視化。KPIから明細レベルまで1画面で確認できる。
背景
東証のPBR改善要請を受け、管理会計の高度化ニーズが急増。専門人材不足と属人化が深刻な課題に。
ログラス概要
2019年5月設立。ミッションは「良い景気を作ろう。」。経営管理・人員計画・IT投資管理など複数製品を展開。
配賦機能の「全面刷新」が持つ意味
今回のアップデートで特に注目されるのが、管理会計の根幹をなす「配賦・振替機能」の全面リニューアルだ。配賦とは、共通費用を各部門・製品・チャネルへ按分する処理を指し、正確な損益把握に欠かせない。しかし、多店舗・多品目展開を行う企業では、この計算ロジックが極めて複雑になる。
たとえば、全国数百店舗を抱える小売企業が「店舗×商品カテゴリ×販売チャネル」という三軸で損益を管理しようとすれば、従来はシステム担当者やコンサルタントが関与するプロジェクトを起こすほどの工数が必要だった。経営方針や組織体制が変わるたびに配賦ロジックを変更しなければならず、現場はその対応に追われ続ける。
今回の刷新では、ユーザー自身が「商品×取引先」などの多軸設定や数百店舗単位の配賦ロジックを自在に構築・維持できるようになった。さらに、複数の配賦パターンを一つのデータに対して並行実行し、ロジック変更時の影響を比較検討することも可能になったという。同社が特許出願中とする「繰り返し配賦」機能も合わせてリリースされており、大量の類似した配賦ステップを一括管理できる点が評価されている。
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「パターン配賦機能により、計画・実績ごとに重複していたパターンを共通化して利用できるようになり、設定・メンテナンス工数が大幅に削減された。配賦ロジックの透明性向上にも寄与し、部門間の情報共有や引き継ぎもスムーズになっている」
── 株式会社I-ne(ヘアケア・ビューティブランド展開)経営企画担当者のコメントより
「経営データの民主化」をノーコードで実現
もう一方の柱であるダッシュボード機能は、データ活用の「川下」にあたる可視化・分析フェーズを担う。専門技術なしに帳票からワンクリックでグラフを作成でき、KPI指標から明細レベルまでを1画面で把握できる仕組みだ。
従来型のBIツールは、導入・構築に専門エンジニアが必要で、中堅・中小企業にとっては高いハードルだった。かといって表計算ソフトでは、会議の場でリアルタイムに分析軸を変えるといった「即応性」に限界がある。このギャップを埋める存在として、ノーコードのダッシュボード機能が位置づけられる。
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この機能が意図するのは単なる効率化ではない。事業責任者や経営陣が自ら数字を引き出し、仮説を検証する習慣を根付かせること――いわば「経営データの民主化」だ。経営企画部門が集計作業に追われる現状を打破し、組織全体をデータ駆動型の意思決定へとシフトさせるという思想が根底にある。
「どのデータを組み合わせれば事業を正しく因数分解できるか、という議論や運用が加速した。膨大に蓄積された手元データの集約と即時の資料化が可能になり、管理会計のレベルが一段引き上げられた」
── 日本PCサービス株式会社 経営企画担当者のコメントより
市場が問うのは「入力から活用まで」の一気通貫性
経営管理SaaS市場には、国内外で多くのプレイヤーが参入している。大手ERPベンダーのモジュール、特化型の予実管理ツール、そして汎用BIツール。それぞれが機能を拡充させる中で、ログラスが差異化の軸に据えるのは「データ入力から加工・可視化までの一気通貫性」だ。
バラバラなフォーマットの表計算ファイルや社内の各システムからローデータをそのまま取り込んでデータベース化し、管理会計処理(配賦)を経て、ダッシュボードで可視化するまでを単一プラットフォームで完結させる。今回のアップデートは、その構想の「配賦」と「可視化」というコア部分を一気に強化したといえる。
PBR改善への市場圧力は今後も続く公算が大きく、企業のデータ経営需要は構造的に拡大する。「必要な情報が正しい形で常に手元にある」状態を実現できるか否かが、企業の競争力を左右する時代が来ている。経営管理ツールはもはや「バックオフィスの作業効率化ソフト」ではなく、経営の意思決定そのものを支える戦略インフラへと変貌を遂げつつある。
ログラスがこの大型刷新で示したのは、その変化の方向性と、そこへのコミットメントだ。AIレポーティング機能やForecast機能といった次の一手を期待する顧客の声も上がっており、同社の製品ロードマップから目が離せない。




