
人事労務クラウドの最大手、株式会社SmartHRが3月27日、情報システム部門の業務代行(BPO)を主軸とするSUNITED株式会社を完全子会社化した。興和株式会社の100%子会社だったSUNITEDの全株式を取得したもので、SmartHRのグループ会社化は2025年5月の業務委託管理クラウド「Lansmart」を手がけるCloudBrainsに続く形となる。
今回の買収を読み解く鍵は、日本企業が直面するIT人材不足の深刻さにある。経済産業省の試算では、2030年には最大79万人のIT人材が不足するとされており、社内ITを支える情報システム部門では専門人材の確保が特に難しく、情シス要員が一人以下の企業は中小企業で88%、中堅企業でも38%に上るという実態がある。2025年の調査では、国内企業で採用に携わるビジネスパーソンの75.2%が自社のIT人材不足を感じており、従業員1000人以上の大企業では79.6%に達する。DX投資の加速と人材供給の停滞が生む「DX格差」は、今や企業規模を問わない構造的な問題として定着しつつある。
SmartHRがこの局面で打つ手が、SaaSとBPOの融合だ。同社が今回の買収を通じて目指すのは、AIを活用した次世代型アウトソーシング「AI BPaaS(Business Process as a Service)」の確立である。クラウド人事労務ソフトウェアの提供にとどまらず、情シス領域の実務運用そのものを担う体制を整えることで、テクノロジーを「導入して終わり」にしない包括的な支援モデルを構築するという構想だ。
買収対象のSUNITEDは、2019年創業の新興企業ながら、取引先は100社以上(上場企業多数)、顧客リピート率・案件継続率85%以上という数字が示す通り、現場密着型の実務支援に定評がある。ITコンサルティングやシステム開発・運用のほか、採用支援、ISMS認証取得支援、デジタルマーケティング支援まで手がける幅広い事業ポートフォリオを持ち、バックオフィス全般を”伴走支援”するモデルで差別化を図ってきた。
SmartHR代表取締役CEOの芹澤雅人氏は「テクノロジーを導入するだけでなく、それを実務に定着させ、活用し続ける体制の構築が不可欠」とコメントしており、ソフトウェア企業として積み上げてきた顧客基盤とSUNITEDの実行力の組み合わせに期待を示す。
市場構造の観点からも、このM&Aは注目に値する。国内のSaaS企業がBPO機能を内製化・グループ化する動きは、HRTechをはじめ複数の領域で広がりを見せており、「売り切り型」から「定着支援込みの継続型」へとビジネスモデルを深化させる潮流の一端と見ることができる。特にSmartHRのような人事労務系プラットフォームにとって、情シス領域との親和性は高い。入社・退社に伴うアカウント管理や社内ツール整備は、人事データと表裏一体で動く業務だからだ。
SmartHRは2025年6月に「2030年売上1000億円」という目標を掲げた新事業戦略を発表しており、「非連続な成長」の手段として今後もM&Aを活用する方針を明言している。今回のSUNITED買収は、その戦略の具体的な一手であると同時に、SaaSとサービスの境界線を越えた「人的資本経営プラットフォーム」という新たな競争軸を打ち立てようとする同社の意志を示すものでもある。
IT人材不足が深刻化する中で、テクノロジーの恩恵を享受できる企業とそうでない企業の間に生じる「DX格差」という社会課題。SmartHRが描くSaaS×AI×BPOの融合モデルが、その格差を縮める現実解となり得るかどうか、その実効性が問われるのはこれからだ。




