「紙の納品書」が消える日――オリンパスマーケティング、AI帳票システム導入で見えた医療機器流通の構造課題の画像1

医療機器大手オリンパスの国内販売子会社、オリンパスマーケティング株式会社が、LayerX(東京都中央区)のAIクラウドサービス「バクラク請求書発行」を導入した。対象業務は販売店向けの納品書発行・送付で、これまで毎日発生していた印刷・封入・郵送という一連のアナログ作業をゼロにすることを目指す。

一見、経理部門の地味な改善に見えるが、その背景には医療機器流通特有の構造的な問題が横たわっていた。

遠方の販売店への「到着ラグ」が顧客サービスを制約

オリンパスマーケティングは、世界トップシェアを誇る消化器内視鏡をはじめ、幅広い医療機器・消耗品を全国の販売店経由で展開している。問題となっていたのは、販売店へ個別郵送する納品書の配送リードタイムだ。特に遠方エリアでは到着までに数日かかるケースがあり、販売店が納品情報をリアルタイムで確認できない状態が続いていた。

加えて、現場では印刷から封入に至る手作業が毎日発生し、担当者の工数を圧迫していた。電子帳簿保存法への対応も求められる中、アナログ運用の限界は明白だった。

同社Supply chain Managementの古池氏は「遠方エリアへの到着タイムラグ改善が、顧客サービスの観点から課題となっていた」と述べている。デジタル化への要望は現場から長く挙がっていたという。

AI-OCRと自動分割で「基幹システム改修ゼロ」を実現

今回採用した「バクラク請求書発行」の特徴は、既存の販売システムに手を加えずに導入できる点にある。

具体的には、事前に設定した分割ルールに基づいて複数ページのPDFを取引先ごとに数秒で自動分割。分割後の納品書はAI-OCRが取引金額・日付などの項目を自動で入力補完し、さらに送付先コードを読み取って送付先マスタと自動照合する。これにより、人が目視確認していた「どの販売店に送るか」の判定までが自動化される。

基幹システムの改修を不要とした設計思想は、IT投資に慎重な医療機器業界において導入ハードルを大きく下げる。古池氏も「基幹システムに依存せず柔軟に対応できる点を評価した」と明言している。

15,000社超のバックオフィスDXを支えるLayerX

LayerXは2018年創業のAIスタートアップで、バクラクシリーズの累計導入社数は2025年4月時点で15,000社を突破した。 稟議・経費精算・法人カード・請求書受取・請求書発行・勤怠管理など、バックオフィス全般をカバーする複合プロダクト群を展開する。2025年9月には150億円の大型調達(シリーズB)を実施し、累計調達額は約282億円に達した。 

同社が狙う法人支出管理(BSM)市場は国内だけで2兆円超とされ、電子帳簿保存法やインボイス制度への対応需要が追い風となっている。 freee、マネーフォワード、Sansanといった既存プレイヤーとの競争が激化する中、LayerXはAI-OCRの精度とプロダクト間連携を差別化軸に据え、サービス継続率99%以上という高い定着率を維持している。

「アナログの聖域」に踏み込む医療機器DX

製薬・医療機器業界は、規制対応の複雑さや取引慣行の特殊性から、デジタル化が他業種に比べて遅れがちな分野として知られる。納品書という「最も地味な帳票」のデジタル化でさえ、販売店との個別確認工数や特別ルールの存在が壁となってきた。

オリンパスマーケティングの今回の取り組みは、こうした業界特有の慣行に切り込む事例として注目される。郵送作業ゼロと配送リードタイムの解消が実現すれば、販売店はリアルタイムで納品情報を確認でき、双方の業務スピードが向上する。その効果は単なるコスト削減を超え、顧客サービスの質そのものに直結する。

日本企業のバックオフィスDXは「難しいところ」から手がつけられていないケースが多い。インフラとなる販売システムを変えず、現場の運用フローを最小限の変更で電子化する——このアプローチが、医療機器業界における「アナログの聖域」を崩す突破口になるかもしれない。